わたしの住む町に「セアラ」という老人介護施設がある。そこを以前見学に行ったとき、ロビーに大きな油絵が掲げてあった。ほんとうにうつくしい絵。眼がすい寄せられてしまった。


それはおそらく昭和30年代前半であろう、下町の小路の夕方を描いたものである。女の子がふたり、ろう石で地面になにか描いて遊んでいる。路の両側は木の塀。木のごみ箱が置いてある。


この木のごみ箱のおかげで、私はこの絵がわたしが小学生の時を少しさかのぼる頃を描いたのだとわかったのである。木のフタをぱかっと開ける式のごみ箱。奥さんが箒で道をはいて、ちりとりでごみを掬って、ぱたぱたと入れるごみ箱である。わたしの幼少の頃の記憶にかすかにある。


つまり、そんなにごみが出なかったのであろう。きっとお便所のものは堆肥としてお百姓さんが取りに来たかもしれない。紙は反故紙にして裏を使った。


話が少しずれたが、その絵の色彩のうつくしいこと!夕暮れの下町である。わたしは、単に昭和三十年代のものだから、ということで懐かしがるのはちょっと恥ずかしいのだが、眼をそらしても、つい吸い寄せられてしまった。


今でもあるかしら。また行ったらこんどはカメラに写させてもらおう。